夏風邪

 

咳が止まらない 横になると苦しくて眠れず 思い出すのはちいさな子供だった頃
わたしは大人になるまで体が弱く 季節が変わる度に喘息の発作を繰り返した
ひいおばあちゃんは布団で寝ている私の隣で手を握りながらお経を唱えてくれたけどそれがとても怖かった
喘息が出た夜はいつも孤独だった 苦しくて涙が出てもっと苦しくなって、ひとりぼっちだ、と思った
薬を飲むのが苦手で何時間も泣いていた どうしても飲むことが出来なくて、それでもお母さんはいつもいつも何時間でも手を握ってくれた 今でも薬を飲む時には手をぎゅっと握ってしまう もう誰もいないのに
救急車に乗って向かったベットの上で、お母さんの代わりに私がつき添いますと泣いていたおばあちゃんの姿を忘れられない 入院するのは嫌だと泣く、大人になった孫を抱きしめてくれた私の大好きなおばあちゃん

色の変わっていく唇 視界が曇っていく 救急車のサイレン パルスオキシメーター 吸入器のガスの臭い 拡張シールの痒さ  薬が混ざったバニラアイス 天井の四角いタイル 嫌なことばかりを思い出す


咳き込む私と同じ部屋で過ごしている恋人は高熱を出した 死んだりしないとみんな言う そんなことでは死なないと でもどうしてそんなことが言えるんだろう わたしは本気で、もう会えなくなるかもしれないと思う そしてそれがとてつもなく怖いのだ